


1913年(大正2年)に製造が開始された大正の名機9600形蒸気機関車は、製造当初の9600〜9617号機の18輌のキャブの裾部分が優雅にS字型を描いていた。同様のデザインは初期の8620形にも採用されており、なぜこのようなデザインになったのか、単なる見てくれのためだけだったのかわからないが、いずれにせよ製造工程が複雑になるのを嫌われて9618号機からは直線的なデザインに改められたため、結果的にS字キャブ機の方が変形機となった。9600形初期の9600番台機は100輌中31輌が日中戦争開始と同時に中国大陸に出征しており、特に9600〜9617号機18輌については8輌が送られたため、残留した9600形S字キャブ機は希少な存在となっている。上の写真はその1輌として有名な竜華機関区の9608号機で、後に鉄道開業90周年記念行事の一環として青梅鉄道公園に静態保存された。初期生産機の構造やデザインが後に変更されて、初期生産機自体が変形機になってしまうという例は、D51形のナメクジ・ドームやDD51 1号機を始めとして、ED71 1〜3号機、ED72 1・2号機、EF30 1号機、EF57 1号機、EF63 1号機、EH10 1〜4号機など電気機関車に多く見られ、考えてみれば初期生産機は試作的な色彩が強いので自然の成り行きなのかもしれない。設計当時はよかれと思って採用した新システムが現場に受け入れられなかったり、様々な初期不良に対して手直しを行っていきながら、より洗練された量産機に変わっていくからだろう。余談だが、自動車にせよ電気製品にせよ、パソコン・ソフトにせよ新製品発売と同時に飛びついて買うのは実は好ましいことではなく、大方の初期トラブルを克服して商品として安定し始めた半年後や1年後に購入するのが、賢い買物の仕方だといえる。 |