レトロ・鉄道シンポジウムT

−このシンポジウムは1964年(昭和39年)発行の朝日放送(株)

社報「アンテナ126号」より転載させて頂きました−

出席者(敬称略)

門根秀次郎(嘱託) 安保彰夫(美術) 堀井卓(工務)

司会:里見太郎(音楽効果)


司会:安保さんの対象は、今後ますます日本の国土から減っていきますね。

安保:関西近辺じゃなくなりましたから、自然遠くまで足をのばさなきゃならなく

   なります。

司会:一番遠くへ行かれたのは?

安保:稚内です。あそこには国鉄最北端の駅という看板が出てました。

堀井:あそこの入場券の回収率は一番悪いそうですね。

門根:堀井さんみたいな人が多いから。

堀井:その方が駅でも整理せんでいいから助かるんですよ。

司会:専用軌道全部写してしまったら、方向転換ですか?

安保:そうせざるを得ないでしょうね。でも、国鉄の一般の営業用の車輌より、

   息は長いと思うんです。専用鉄道は持主が小さい会社が多いので、近代

   化しようと思ってもできないところが多いんです。自然、石炭使うのばから

   しいけれども、いつまでたっても金がないから、旧態依然たる蒸気機関車

   にマッチ箱を引かせているので、対象は当分消えない。

門根:安保さんなんかは、線でつながって写しにいくんじゃなしに、点ですね。

   非常に労力がかかるわけですね。

司会:私らでしたら、1日線路の横におれば何十輌でも撮れますけれども、安保

   さんなんかは、1日かかって1輌しかとれないということもあるわけですね。

門根:とにかく国鉄幹線からは蒸気機関車は全部消えてしまうから、蒸気機関

   車関係の人は急がなくちゃいけないですよ。

堀井:蒸気機関車もそうですが、東海道新幹線ができたら、「こだま」なんかも

   なくなりますからね。

司会:「こだま」の試運転に乗せてもらったのは、ついこの間のような気がします

   が、この10月にはなくなるわけで、実際目まぐるしい。マニアもそれだけ

   目まぐるしくなってきます。

門根:鉄道はじまって90何年で、いまが過渡期のような気がしますね。切りか

   われば一応落ち着くでしょうが、一面からいえば、恵まれた時期でもありま

   すわね。

堀井:「レールファン」を見ると、アメリカには蒸気機関車がない。日本にはいろ

   んな種類のやつがあるから、というので、4月か5月ごろ、20何人やって

   くるそうです。

司会:アメリカの鉄道マニアはスケールが違いますね。

門根:向うのは、蒸気機関車を1台買って、みんなで運転やろか。ちょっと日本

   と違いますわ。

司会:動力近代化で、蒸気機関車をなくして電化し、ディーゼル化しつつあるん

   ですが、現在ほど車種が多いのは、いままでなかったですね。

門根:これから規格統一されていったら、いままでみたいなおもしろさは少なく

   なるでしょう。

司会:私は逆の考え方なんですが、昔は特急用、急行用、通勤用と基本の形が

   できあがれば、3、4年は同じ形のものを作ってましたね。このごろのように

   EF60が出たかと思うと61が出る。アプト区間を廃して62、それの補助

   機として63が出た。今年のはじめにEF64を発表している。

   こう矢継早にニューモデルの出るというのも、最近の特徴じゃないかと

   思います。

堀井:電車でもそうですね。勾配用とか、交直両用とか、60サイクル、50サイ

   クルもありますし。電車は色がきれいになりましたね。

司会:湘南電車にはじまった、新しい色彩で、むしろ私鉄の方が国鉄にハッパ

   かけられている形ですね。

門根:昔のカラスと違うてきれいになって、旅行していても快適ですね。しかし

   味はなくなったような気がしますし、台風とか災害のときの復旧は、電車は

   遅いですね。その点蒸気機関車はいい。独力でいける。

安保:線路さえありや走りますからね。

司会:大きな天災地変でもあれば、たちまちマヒしますね。

安保:蒸気機関車を廃車してディーゼルにしているが、結局燃料は全部輸入

   ですからね。戦争でもはじまった途端に逆戻りですよ。

司会:マニアより一般の人がさわいでいる気がしますが、新幹線の開通、超特

   急の相場に多少ブレーキをかけるような記事も週刊誌なんかに出てます

   が。

門根:4時間かかるなんていい出しましね。もう少し路面が落ち着かないと無理

   でしょう。

司会:土盛り区間のピッチの固まり方がね。半年ぐらいかかるでしょうね。

門根:しかし、新幹線はニュースの材料にはなっていますね。とにかく200キロ

   で営業運転に入るのは、世界でもはじめてですから、ニュースバリューは

   ありますよ。

司会:安保さんなんかは興味ないですか。

安保:便利で、きれいだろうという程度ですね。東京まで3時間で行けるとした

   ら、そこを基地に足を伸ばせるという意味では便利になりましたが、われ

   われ写真を写す立場からいうと、あまり興味ありません。

門根:去年は近年にない大雪で各所でマヒしましたね。ああいうのは、何とか

   早く回復できんのでしょうかね。

司会:何分雪害の多い線というのは、非常に赤字をかかえ込んで施設に投入

   する余地がないんでしょう。

堀井:あれが東海道線なら、放っておかないでしょうが・・・

門根:日本の雪はベタ雪だから困るらしいですよ。動きが取れない。救援に行っ

   た列車がそこで沈没してしまう。

司会:ミイラとりがミイラになるんですね。

門根:この汽車はいつきますか?と駅へ行って聞いても、わかりまへんな・・・。

   どうにもならんのですよ。

司会:鉄道マニアも利用者として毎日鉄道を利用しているんですが、利用者と

   しての感じ方が違うと思うんですが。

門根:理屈はとにかくとして、みんなやかましくいっているラッシュの問題にして

   も、むずかしいですね。

司会:一般の利用者は、電車が混んでくると、車輌増結せいとか無責任なことを

   いいますが、鉄道マニアはこれ以上増結できないとか、これ以上臨時列車

   が出せないことがよくわかってますから、注文が出しにくいですね。列車が

   遅れて到着しても、一般の人は駅員や駅長室になだれ込んで文句をいう

   が、こちらはすぐ、鉄道の側に立って考えて、同情してしまう。

門根:大きな施設ですから、連絡1つにしても大変ですし。

堀井:しかし、このごろ電化しますと、快速であったのが準急になったり、準急が

   急行になったり指定急行になったりしてますね。あれは実質的な値上げで

   すよ。

門根:あれは考えよったな。サービスしてるといいながら、実際は金もうけして

   いる。

堀井:それと普通列車が減りましたね。ついこの間まであった大阪から青森まで

   の普通列車、30時間くらいかかるんですが、なくなったし、上野から米原

   行の普通もなくなりました。その前は東京から門司行の唯一の九州行普通

   列車、あれも姫路で打切られた。ああいういわれのある列車は残してほし

   いですね。

安保:接続時間を20分ぐらいにしてくれたら、写真をとれるけれど、どこへ行っ

   ても4分か5分で忙しくなった。

門根:写真をとる人を相手にしてくれませんよ。まあ過密ダイヤの影響が出てき

   てるんですね。

司会:このごろは、駅でもの買うこともできませんね。

堀井:駅弁でなく、汽車便になってしまった。

司会:僕なんか、8時間で走ったのを6時間半にして、1時間半速くしてもらった

   からといって、1時間半有効に使っているわけじゃないから、いままでの

   時間で、昔の列車で走ってもらう方がうれしいですよ。

司会:鉄道マニアの特権というとどんなものがあるでしょう。

安保:僕は糸魚川の東洋活性白土へ、11月の夕方行ったんです。

   向うの人、手を洗ってしまいかけていたんですが、わざわざ機関車を引っ

   張り出して、駅のところまで来て写させてくれて、帰る駅までその機関車に

   乗せて送ってもらいました。

司会:まるでお召し列車ですね。

   私は国鉄の服を借りまして、中島さんと2人で「第1きのくに」号で白浜まで

   運転台で立ったまま行ったことがあります。帰りはそのまま「第2きのくに」

   ですぐ引き返したんですが1等に座らせてもらいました。行きは運転台、

   帰りは1等の日帰り旅行で。

門根:運転台に乗ったり、機関車に乗せてもらうことは、マニアでないと味わえ

   ないものがありますね。

司会:一番前で見ていると、どうしても信号とか、タブレットまで見てしまうので、

   疲れますよ。運転手に任せておけばいいものをね。

門根:運転台に乗ると、運転手は大きな労働やと思いますね。

司会:長距離列車の乗客専務なんかでも、東京−大阪間で切替え券だけで

   7万円くらい扱うんですから、大変な仕事ですよ。

門根:普通はそれぐらいで、年末とかお盆には3、40万はざらなんです。

司会:おもしろいのは、ハコ師は、乗客専務だけはねらうなというジンクスが

   あるらしいですね。

門根:そら乗せてもらって商売しとるんやから、それをやったら元も子もなくなっ

   ちまう。

司会:われわれの旅行は、合理的、合法的に安く行こうとするから、経路もやや

   こしくて、交通公社も嫌いますね。

堀井:交通公社はあきませんね。

門根:ややこしいお客さんやからな。

司会:中継の中島さんと長野へ旅行したとき、乗客専務にコースを説明して、

   切符切ってもらったんですが、中島さんの計算の方が合って、乗客専務が

   だいぶ安い計算をしているんです。あのまま黙ってきたら安く来られたん

   ですけれど、鉄道マニアですから正直に「これだけでしょう」と規定の料金

   を払いましたが。

門根:向う、どんな顔してました。

司会:乗客専務さん、向い側の座席に座り込んで、あとはいろいろ雑談しながら

   来たんですが、「鉄道友の会の方には僕たちかないませんよ」いうてまし

   たよ。(完)


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