

●人々の気性が激しい土地柄というのは、全国にあまた存在するが、私の体験上でダントツに激しいと思われるのが、筑豊地区。筑豊ナンバーの車に乗っている人は常に車内に木刀を携えている、という都市伝説も語られる。ただ、筑豊地区の特徴は、とりわけ女性の気性が激しいこと。筑豊の女は、愚図愚図する男に対しては「あんた、男やろうが。シャンシャンせんとしまやかすばい」(しまやかす→お終いにする→殺す、の意)と叱咤する。●筑豊の女の気性が激しい理由は明確である。ご存知の通り、ここは明治期に入ってから石炭産業で劇的に発展した地方であり、アメリカのゴールドラッシュと同じで他地域から多数の人々が一攫千金を夢見て流入した。金儲けに男も女も無い。本人の実力だけが勝負の世界であって、戦前の炭鉱には女性の姿も多かった。「先山・後山」といって、2人がペアを組み、先山はつるはしで炭壁を掘り崩し、後山がそれを集めて地上へ運び出す。男女のペアが多く、その多くは夫婦である。ペアはぴったりと息が合わないと金も稼げないし、生命も危険にさらされる。だから「シャンシャンせんとしまやかすばい」というのは、男を愚弄する言葉というよりも、「ここで踏ん張らんと、生命がお終いになるばい」という筑豊の女の悲痛な叫びだったと思われる。ちなみに私の母親は、筑豊の中心地である直方市の商家の出身である。 |

●筑豊地区の蒸気機関車で、まず目に浮かぶのが9600形である。もちろん他にも貨物機のD50やD51・D60、旅客機ではC11・C51・C55等も活躍したが、後藤寺線、田川線、伊田線、添田線、漆生線等、炭鉱間を網の目のように結ぶ支線区において、石炭車を単機あるいは重連で牽引する9600方の姿がより印象的だった。9600形は、出力はさほどではないが、シリンダー引張力(13,925kg)や粘着牽引力(13,183kg)においては中型万能機のC58を凌駕し、大型旅客機のC62に匹敵する。まさに石炭列車のような重量貨物列車牽引にはうってつけのカマなのである。●後藤寺機関区を始め、筑豊地区に配備されていた9600形のキャブの下方には穴があけられているものが多く見られた。これは、キャブ下に設置された蒸気分配弁等の捕機類を点検しやすくするために、小倉工場で施工されたものだが、穴のあけ方が機関車によってまちまちで、蓋をつけるわけでもなく、良くいえば荒削り、悪くいうと仕事が雑である。これもある意味、筑豊地区の特徴を表している。●後藤寺を発着する田川線の石炭列車では、本務機+後補機の重連運転を見かけることがあった。重連運転では2両の機関車の息がぴったり合うことが肝要で、とりわけ後捕機の役割が重要になってくる。ちょうど炭鉱での「先山・後山」のことが思い出されるのである。 |

