

半流線形の正面に張り上げ屋根風の20m級電車。東武鉄道の旧型車には見かけないタイプである。しかしそのスマートな車体が、この電車の悲しい過去を物語っている。写真のクハ360は、元省電のエース、クハ55形の成れの果てなのである。1937年(昭和12年)に汽車製造東京支店にて製造されたクハ55 048は、1945年(昭和20年) 5月25日の東京空襲の際に大久保駅にて全焼した。1946年(昭和21年) 11月付で廃車手続が行われた後、東武鉄道に払い下げ、大榮車輌にて復旧工事が行われた。特徴ある半流線形の正面形状は残ったが、貫通扉はつぶされてその中央部分に運転席を据えている。一見、張り上げ屋根に見えるが実はそうではなく、雨樋が省略されているだけという粗末な復旧工事であった。雨露を防ぐ術もない復旧車クハ360は、運輸省供出のモハ63形と皮肉な永久MTc編成を組まされ、小雨降る春日部駅を浅草に向けて立ち去って行った。 |